マフィア作家、イーストウッド映画を観る:ロベルト・サヴィアーノ

当ブログでは、すっかりお馴染みのアンチ・マフィア作家ことロベルト・サヴィアーノ。
カモッラ(ナポリマフィア)に命を狙われ、警護付きの生活を送る身としては、映画館で映画鑑賞…なんて夢のまた夢のようですが、なんと、ど〜しても観たい作品があったもんだから、貸し切りにしてもらったようですよ。
その作品と言うのは、あのクリント・イーストウッド監督の最新作…と言っても、この記事、今年の2月末にイタリア紙に掲載されたものでして…
あっ、映画のストーリーの方は、いわゆるネタバレ有りなんで、未見の方はご注意くださいね。

イタリア 『クリント監督とマンデラ大統領、『インビクタス』の叙事詩』

「クリント・イーストウッドと言う俳優は、表現する際に2つの手だてしか持ってないんだ。つまり、カウボーイハットを被ってるか、被ってないか…なんだな。」
セルジオ・レオーネ監督は、お気に入りのウエスタン俳優のことを、こんな風に言い表していたものだ。
しかし今や、この『表現2つの俳優』は、映画製作に関して誤ることがない。各作品ともに必然的なものとなっている。
その作品はまるで、物語の中で世界をまとめ上げ、理念を明確にしようとする道程のようなのである。

『グラントリノ』、『ミリオンダラーベビー』、『硫黄島からの手紙』…これらの作品の中で語られるのは、世界がいかに進むべきかではなく、個々人が各々の選択を通じていかにそれを進めさせるかと言うこと。たとえ、その選択が正しかろうが、誤っていようが。最悪だろうが、最善だろうが。
それは、イーストウッド監督が描く『個々人』なのだ。

私は『インビクタス/負けざる者たち』が、何が何でも早々に観たかった。
映画館に行くなどとは、私には難しいことだ。
ほとんど不可能と言ってもいい。
しかし、ワーナー・ブラザーズが、朝イチの上映を私のために解放すると言ってくれたのだ。
ほかの観客は無し。私のボディガード達の携帯電話は預からせてもらう。作品を無断で録画しないようにと。
2時間を越える『インビクタス/負けざる者たち』のフィルムが回り始め、まさに期待通りのイーストウッドに巡り会えたわけである。
今回は、さらに練り上げられていた。
感動させることに、感情に訴えかけることに、恐れを抱いていない。

物語は、ネルソン・マンデラと、ラグビー・チーム『スプリングボクス』についてのもの。
舞台は1995年、南アフリカ大統領になりたてのマンデラが、暴動、衝突、報復を回避すべく、まず必要としたのが、このラグビー・チームだった。
ほとんど不可能とも言える企てだ。
黒人達の大部分は、アフリカーナーと呼ばれる白人の迫害を、かくも長きに渡り受け続けてきた。
皆が報復を望んでいる。
恐怖におののき、クーデターや抵抗運動に備える白人。
命を奪われ、投獄された者達への報復として武装する黒人。
そして、囚人番号46664号として30年間の投獄生活に耐えたマンデラ大統領の見事な政策が、この『サプライズ』策だった。
マンデラ大統領みずからが述べているように、これは世界を驚愕させた。
「寛大な心と、理解でもって意表をつく。我々から白人が何を奪ったのかは、良くわかっている。しかし今は、ひとつの国家を成すべき時なのだ。」と。

マンデラ大統領を演じたモーガン・フリーマンは、ゆったりとした厳格な物腰や、微笑み方、挨拶のしぐさ等を研究したと言う。しかし、それらは物真似などではなく、再現だ。まさに演技なのだ。
スクリーンの中で、白人の南アとは違う黒人のそれを夢見る指導者の姿に息吹を与えている。
アパルトヘイトが推進された南アフリカで、黒人はサッカーを支持し、ラグビーを疎んじていた。
ヨハネスブルグ辺りでは、こんな風に言われている。
「『お嬢さん』向けのスポーツを『いかつい野郎共』がしているのがサッカーで、『いかつい野郎』向けのスポーツを『お嬢さん達』がしているのがラグビーなんだ。」

実際には、マンデラ大統領はラグビーに熱中したことはない。
白人のスポーツを、黒人も好んだ方が良いと言うことを理解していたのだ。ラグビーの世界選手権が、乗り越えなければならない最もデリケートな政治的試みとなるのだと。
マンデラ大統領は内線勃発の瀬戸際で、二つに分断された南アフリカを統一するため、マスメディアや一般大衆の考えと共に、これに着手した。
ラグビーが、なにか別の言葉でもって国民に語りかけるのではないか…と。政治演説で一つにまとめられないのならば、熱狂的にチームを応援させることでならどうだ…と。
当時、南アフリカの黒人らは、アフリカーナー・チーム『スプリングボクス』の金と緑のユニフォームがフィールドを駆け巡る時、イギリスやオーストラリア、果てはフランスチームまでをも応援した。
とにかく、この白人チームを叩きのめしてくれるチームなら、どこでも良かったのだ。

『スプリングボクス』の選手らは、もはや、このナショナル・チームが白人の南アを代表している等と思っておらず、マンデラ大統領も、そのことを承知している。
大統領の任務は、選手らに新たな国家の代表であると、新たな政治的潮流に対し責任があるのだと思わせることなのだった。
マンデラ大統領は、まず、自身のボディガードから着手する。
ANC党(アフリカ民族会議)のファイルから選出されたボディガードと、白人ボディガードらを混成チームにしたのだ。
ほんの1年前まで黒人らを捕らえていたアフリカーナー達と、黒人ボディガード達は手を組みたくなどない。しかし、マンデラ大統領は選択の余地を許さなかった。
「平和な国家は、ここから生まれるのだ。私の傍らには、南アフリカの二つの魂に居て欲しい。」

そして、マット・デイモン演じるフランソワ・ピエール主将との会談。
この俳優の上手いこと。表情ひとつで、『黒人らに怯えながら、南アフリカ初の黒人大統領に出会う白人』を演じ切っている。
デイモン扮するピエール主将は、才能ある選手なのだが、チームメイト共々、もはや社会的な落ち込み状態に打ちのめされている。出る試合はことごとく負け続きで、自分ら白人達の国はもはや終わってしまったと感じているのだ。
マンデラ大統領は、そこに一石投じる。
「我々はインスパイアーされなければならないのだ。」と。

ピエール主将とマンデラ大統領の間に、ダイレクトな関係が生まれる。
マンデラ大統領から、南アフリカで開催される世界選手権で勝ってくれと頼まれるピエール主将。この企てに、専門家らは口々に不可能を唱える。しかし、ここに成さねばならぬ国がひとつあるのだ。みずから選手らのトレーニングに乗り出すマンデラ大統領。
チームに在籍する唯一の黒人選手は、かつて白人が足を踏み入れたこともない貧民街に住んでいる。選手らはそこへ出向いて、白人のスポーツであるラグビーを黒人少年らに教えるのだ。また、マンデラ大統領が投獄されていた刑務所へも赴く。魂が鍛えられてゆく選手達。
映画のなかで明らかなのは、選手達が受けている訓練と言うのが、国全体が理解しようと歩みを進めている道程以外の何ものでもないと言うことだ。

ラストは、もう、どうなることかとワクワクする。
いや、むしろハラハラするだろう。
何かが変な方に行ってしまうんじゃなかろうか、この楕円形のボールのせいで大いなる新国家の夢が、つまりは南ア・チームの世界選手権での夢が打ち砕かれてしまうんじゃなかろうかと。
決勝戦、ニュージーランドのオールブラックスを打ち負かした勝利は、ただのスポーツにおける勝利ではなく、20世紀における最も重要で、世界的な政治成果のひとつなのだ。
ひとつのチームに、ひとつの国民が集結したのだから。

期待通りにクリント翁はショットを誤らず、私は大満足で映画館を後にした。
現在の南アフリカは、多くの人間が待ち望んだような虹の楽園からは、ほど遠い。
だからと言って、いかにしたら政治と言うものが、我々が見慣れているそれと異なるものになれるのかと言うイーストウッド流の教えから、なんらも差し引かれるわけではない。
あらゆる意味において、いかにしたら権利と幸福を手に入れたいと望む一人の人間の、ひとつの民の夢になりえるのか。
マンデラ大統領は、イギリスの詩人ウィリアム・アーネスト・ヘンリーの詩でもって、これを言い表している。

運命の刃にに打ちのめされ
頭(こうべ)が血にまみれようが
うなだれはしない…
たとえ門がどれほど狭かろうと…
人生にどれほどの罰が待ち受けていようと
わが人生のあるじは、我である
わが魂を司るは、我である。

ロベルト・サヴィアーノ

(日本語翻訳:La Chirico / 伊語記事:La Repubblica 2010年2月26日

他に観客のいない映画館で、ボディガード達と一緒に映画を観るロベルト・サヴィアーノって…
絵的には、観客席の方も映画の1シーンみたいですね。

あっ、それと、イタリアでは6月2日は『共和国建国記念日』となり、祭日なんですよ。
…で、当ブログもお休みとなりますんで、よろしくお願いいたします。

いったい、いつ、
話がマフィアにつながるんだろう…
と、ついうっかり期待してしまった管理人に
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2 Responses to マフィア作家、イーストウッド映画を観る:ロベルト・サヴィアーノ

  1. f.panda 2010年6月3日 at 5:31 PM #

    Chiricoさん、マフィアという文字やその関係(もちろん首相を含め!)に敏感に反応してしまう f.pandaです。

    「インビクタス」私も観ました!映画はなるべくオリジナル言語で観るようにしてるんですが、どうもマンデラなまりのフリーマン英語が分りずらくてギブアップ。
    先日遅ればせながらイタリア語版のを観て、感激。

    ああ、こんな凄い人達がいるんだ、何かを信じて世界を変えようと、ただひたすら信念を貫ぬいて努力を惜しまず勇気をもって生きる人達が。

    サヴィアーノもマンデラ大統領やイーストウッドとなにか共通する魂を持っているんでしょうねぇ。。

    頑張れ!サヴィアーノ!
    Chiricoさんもホントに訳お上手!

  2. chirico 2010年6月3日 at 11:11 PM #

    おっ、f.pandaさん、やっぱり読んでいただけましたネ!

    サヴィアーノへの声援とならんで、拙訳まで褒めていただいて…光栄至極であります。

    記事を紹介しといて恒例なんですが、私は、まだ観てないんですよ〜、この映画。
    ただ、日本の映画評なんかでも評判が良かったんで、サヴィアーノが感想を書いてるんなら、訳さぬわけにはいかぬ…と。
    (その割には遅れましたが…)

    実は、前回のサヴィアーノ記事などは、けっこう興味を持てくれた方が多くて驚いてたんですよ。
    おっくうがらないで、今後もチャレンジして訳していかねば…等と思っております。

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