作家がマフィアと戦う方法【前編】:ロベルト・サヴィアーノ

イタリア人作家ロベルト・サヴィアーノと言えば、カモッラ(ナポリマフィア)の内幕を暴き出した処女作『死都ゴモラ』がベストセラーとなり、そのお陰でカモッラから命を狙われ、現在でも警護付きの生活を強いられていると言う、筋金入りのアンチ・マフィア作家であります。
そのサヴィアーノが新作『La parola contro la camorra(マフィアに対峙する言葉)』を引っさげて久々に登場、今回は発売に先立って…って、スミマセン、実はこれ3月末の記事なんです。
しかも、やっと訳したわりには、前後編と2回分けでして…。
いえいえ、後編は必ず明日の土曜日に掲載しますので、まずは前編から、どうぞ!

イタリア 『こうして言葉が世界を変える』

よく私は自問する。
とてつもない力を持ち、多大なる武力と資金力を有する犯罪組織に対し、どうすれば言葉で脅威を与えることができるのだろうかと。
また、(本当に頻繁に考えさせられのだが)特に海外で、1年間に何十億ユーロも稼ぎ出し、広大な領域に君臨する組織に対し、ただの一物書きが脅威を与えることなどできるのだろうかと。

一言で片付けられる問題などではなく、実のところ、唯一私の頭に浮かんでくる最も納得のゆく答えは、脅威を与えうる言葉が広まってゆくことでならば…と言うものだ。
スポットを当て、そうすることで脅威を与えられるのは、物書きなどではなく、また、それ自身について書かれた本でもなく、ただ言葉があると言うだけでも駄目なのだ。
本当に恐いことと言うのは、決定的な事実を知らされることであり、特に、連中によってもたらされたメカニズムが遂に人目に触れることなのだ。
恐いことと言うのは、どんな風に物事が運ばれているのかが、ある日突然、理解できるようになることなのだ。
裏で起きていることについて、暴き出す手だてを得ること。特に、決定的な過去を、ありのままの過去を、知り得るようになること。もはや遠い昔の過去としてではなく、遥かなるかの地の事件としてではなく、自分の人生における事実として知り得ることなのだ。
つまりは、犯罪組織が最も恐れているのは、光の下に晒され続けることだけではなく、特に、イタリア国内の、そして世界中の何百万と言う人間が連中についての事件を知り、連中の運命を万人に関わる事柄として耳にすることなのだ。

これは、あまりにもマスメディア的なヴィジョンであり、故に、現実とはかけ離れていると思われることもある。
しかし、そんなことはない。犯罪組織や連中の周囲で起きている事象に関心を払うことで(知識人やアーティストらも)、実際に多くの物事、多くの人間の運命が変わってきているのだ。
1978年にシチリアのチニージ市で殺されたジャーナリスト、ジュゼッペ・インパスタート氏の件がひとつの例である。
インパスタート氏が殺された時、コーザノストラ(シチリアマフィア)から出た声明によって、そうとは気づかぬ間に世論が操作されてしまった。
インパスタート氏は駅のプラットホームで自爆テロを目論み、自ら死を選んだのだと。
当時、警察も、事件の経緯としてそのように公表している。
それから20年後、映画『I cento passi(ペッピーノの百歩)』が発表され、ジュゼッペ・インパスタート氏の本来の姿(もはや少数の友人や兄弟、母親の記憶にだけ留められていた)が甦り、しかも、それを万人に知らしめたのだ。
ひとつの恵みとして。法治国家への、司法への、ひとつの恵みとして。
このことによって裁判が再開され、今やそれも、ターノ・バダラメンティ被告(事件当時はアメリカで拘留)の有罪で幕が閉じられようとしている。
一本の映画により裁判が再開された。
一本の映画が、いわゆる自殺し気違いテロリストの烙印を押された青年に、歴史に残る尊厳を与えたのだ。

多くの人間が、このような目にあっている。
シチリアのジャーナリスト、ピッポ・ファーヴァ氏は、コーザノストラが煙たがるような雑誌を作っていた。ファーヴァ氏は孫娘を劇場に連れて行く途中で殺され、撃たれた頭部は焼け焦げていた。
犯罪組織による殺人には、常にシンボリックな様式がある。例えば、顔を狙って撃つのは、胸を狙うのと意味が違うのだ。
ピッポ・ファーヴァ氏の頭部は焼け焦げていた。うなじが撃たれたと言う事実はわずか数時間後には広まり、そして、カターニア市民(野蛮人と呼ぶべきか)の間に、公然たる解釈が生み出されていった。
シチリア風に言うならば、『puppo(プーポ)』だから、つまり、ホモセクシュアルだから殺されたのだと。学校の外で男子生徒を襲っていたからだと。
嘘八百がでっちあげられたのだった。
評判を落としめ、その名を口にするだけで嫌悪の情を引き起こすために。
人々の中に疑念を生じさせ、この類いの事件が起きた際の肥沃な大地を見いだすような感覚を引き起すために。

マフィア関連に首を突っ込んでいる者は誰でも、この手の愚言を身近に聞いている。体面を汚されるような愚言。私は、もう何年も前から、それと共に生きているのだ。そう、しょっぱなから。
それは私の日常に、特に仕事に(多くの人間の心に響いていると言う事実により煙たがれている。特に、知識層やジャーナリストの心に響いたと言う事実は変えられないのだ。)ぴったり沿うようにして耳に入ってくる。
「一体どうして、そんなに多くの人間の心をつかめたのですか?」
人心をつかむ者と言うのは常に、なんらかの権力と折り合っているか、妥協して発言をしているか…と言う国においてだ。
「どの辺で身を翻したんだい?どの辺で身売りしたんだい?誰と手を組んでるんだい?」
この手の皮肉が仕事関連に向けられてくる。
幅広い読者、聴衆、傍観者らの心をつかむと言うのは、つまり、コミュニケーションにおける最も低俗で、最も底意地の悪い社会的な掟を受け入れると言うことなのだ。

そして、犯罪組織が敵を値踏みし、おとしめようとする時も大差はない。
犯罪組織は自明の理と言うものを展開しなければならないのだ。
つまり、我々に楯つく者は、個人的な利益のためにそうしているのだと。
我らに楯つく者は、我らが君臨する領域をおとしめようとしているのだと。
なぜなら、我らは世間で言われてるような存在ではないのだから。
我らに楯つく者は、誰かから金をもらってそうしているのだ。
そして、想像し得る一番の理由としては、我らを利用して己のキャリアを上げようとしているのだと。

言葉が多くの心に響く時、言葉がある種の権力について語る時、それはとてつもなく危険なものになる。
とてつもなく危険だと言うのは、それを守るために己の血肉を、己の体を張らなければならないリスクがあるからだ。
多くの作家、多くのジャーナリストの身に降りかかっていることだ。
イタリアと言う国には、あるひとつの特徴がある。
一般的には、私達について語られる際に触れられないことなのだが、つまり、イタリアは劣悪な国なのだと。非常に悪い。なぜならイタリアでは実行すると言うことが困難であり、権利と言うものが特権のようにに見える国なのだからと。

[ 後編に続く ]

(日本語翻訳:La Chirico / 伊語記事:La Repubblica 2010年3月25日

通常、当ブログは土曜日の更新はお休みしてるんですが、
明日は【後編】を更新しますんで、ぜひ読んでくださいネ。

自分で訳しておいて
かなり変なコメントなんですが、
サヴィアーノの文章って、横尾忠則のツィッター語り口に似てる…
共感クリックPrego..
.

ブログランキング・にほんブログ村へ人気ブログランキング 海外ニュース ブログランキングへ

イタたわニュース関連記事
マフィアは地震の後にやって来る、ゴモラのサヴィアーノが語る【前編】
マフィアは地震の後にやって来る、ゴモラのサヴィアーノが語る【後編】
殺人映像、その後:死都ゴモラのロベルト・サヴィアーノが語る


Pocket

,

5 Responses to 作家がマフィアと戦う方法【前編】:ロベルト・サヴィアーノ

  1. TOLOS 2010年5月15日 at 5:01 AM #

    翻訳おつかれさまです。
    イタリア人の文章って
    ・まわりくどい
    ・比喩が多すぎ
    ・視点が変化しすぎ
    で読むの疲れません?
    日本人って言葉をスリムに磨き、行間で情景を読めるような・・
    俳句的文章の美しさが快しという文化がありますよね。
    だから、このような伊作家の文章は苦手です。
    今も「薔薇の名前」の日本語訳板にトライしているのですが どーも進みません。

  2. chirico 2010年5月15日 at 7:06 PM #

    あぁ〜、TOLOSさん、イタリア語文章は苦手だったんですねぇ…

    通常の新聞記事の文章について言うなら、日本のに比べて『活劇調』ですかねぇ。
    情報を端的に伝える…と言うよりは、面白可笑しく語って聞かせるって感じで。

    『イタたわ』の翻訳記事も、当初は、日本の新聞記事風の完全スリム型に直してたんですよ。
    でも、面白記事が多いせいか、なんか『活劇調』の方があってるな〜って思って。
    でも、あんまり回りくどい時は、かなり大胆な意訳もしちゃいますねぇ。
    そして、情報を提示してゆく優先順位は、今でもけっこう手直ししてます。
    伊文章の場合、くだらない情報が最初に来たり、重要なのが後回しにされたりすることがあるんで。

    でも、サヴィアーノ記事はねぇ…
    やっぱり、通常の新聞記事よりは筆者の文体を尊重しちゃいますねぇ。
    この回りくどさも、また、この作家の個性だよな〜と。

  3. f.panda 2010年5月16日 at 10:39 PM #

    Chiricoさん、お久しぶり~。

    実はこの記事、web版で読んでて、面倒臭くなって途中で投げ出してしまってたんですよ。
    だから翻訳してもらってホント有難いです。
    いつもながら、Chiricoさんエライ!

  4. chirico 2010年5月17日 at 6:31 AM #

    おぉぉー、お久しぶりです、f.pandaさん!

    その気持ち…けっこう、わかります。
    内容が云々ってんじゃなくって、とにかく読みづらいんですよねぇ〜。
    特に、一文が長い時は挿入句が多すぎて、代名詞がどの単語を指してるかが分かりづらいんですよ、この作家さん。

    あぁ〜、でも、喜んでくれる人が居るって分かるだけでも、訳して良かったな〜と。
    読んでもらえて、こちらこそ有難うございます…です。

Trackbacks/Pingbacks

  1. [超朝刊]革命テレビ。ソフトバンクがUstreamと連動した番組をTBSで始めるそうです。 - 2010年5月24日

    […] 作家がマフィアと戦う方法【前編】:ロベルト・サヴィアーノ […]

コメントを残す

スパム防止の為、計算に答えて下さい * Time limit is exhausted. Please reload the CAPTCHA.

Top