コーザ・ノストラと国家の密約書:殺された検事の妻、17年後の新証言

イタリア近代史における、マフィアの究極の謎。
1990年代初頭、コーザ・ノストラ(シチリアマフィア)と国家が交わしたと言う密約書が、いよいよ表沙汰にされようとしています。
…って言うか、実はその『密約書』、イタリアではもう公開されてまして。
とりあえず、17年前、マフィアに爆殺された検事の未亡人が、この『密約書』公開にむけて新たな証言をしていましたので、そちらのほうから先にどうぞ。

 

 

イタリア 『ボルセリーノ未亡人が検察に語る“夫が疑っていたことすべて”』

あの惨劇から17年が過ぎた今、アニェーゼ・ボルセリーノ夫人(写真の左側女性)がかつてないほどの詳しい供述をした。
検察の事情聴取で、アニェーゼ夫人はこんな風に話し始めている。
「ずっと恐かったんです。自分のことよりも息子達や孫達のことが心配でした。でも、ついにこの日が来たんですね。ほんの些細なこととか、取るに足らないようなことも全てお話しすべき日が。」
夫であるパオロ・ボルセリーノ検事(写真中央)がマリアーノ・ダメリオ通りで殺されるまでの最後の2日間について、アニェーゼ夫人は思いをはせる。あの48時間になにが起きたのかをカルタニセッタの検察官らに向かって話したのだ。

アニェーゼ・ボルセリーノ夫人の事情聴取は1ヶ月ちょっと前に、カルタニセッタのセルジオ・ラーリおよびドメニコ・ゴッツォ両検事により行われた。
「7月17日に、夫はローマから戻りました。」
1992年7月17日、あの爆破事件の2日前のことだ。パオロ・ボルセリーノは、ガスパーレ・ムートロの事情聴取のためローマを訪れていた。
パレルモ北部ピアナ・ディ・コッリ平原のマフィアボス、ガスパーレ・ムートロは、92年5月のジョヴァンニ・ファルコーネ検事殺人事件の後、司法協力を申し出ていた。
金曜日の午後、ボルセリーノ検事はガスパーレ・ムートロとの面談を終え、来週の月曜日には再度取調べが行われることとなっていた。

ボルセリーノ検事はパレルモへ戻ると裁判所へは寄らず、まっすぐ妻の待つ自宅へと向かっている。
この時のことをアニェーゼ夫人はこう語る。
「夫は私に2人っきりになれるよう言ってきました。ヴィッラグラッツィア・ディ・カリーニの海岸を散歩しに行かないかと言ってきたんです。」
ここ何年もの間、初めてボルセリーノ検事は護衛を付けず、妻と腕を組んで長い散歩に耽った。仕事の話など妻にしたことはなかったのに、この度ばかりは『ぶちまける必要』があったのだ。
「夫は少しのあいだ黙って、それからこう言いました。“ついさっき、実際にマフィアに会ってきたんだよ。”って。」
2時間ほど前に事情聴取をしたガスパーレ・ムートロのことだ。彼から聞いてきたのは、買収された裁判官のこと、スパイをしている警察官らのこと、コルレオーネのマフィアに仕える弁護士や技師、医師、会計士らのこと。
ボルセリーノ検事は妻にこれらの事を話して聞かせ、それから、「月曜日にまたムートロの事情聴取をしにローマへ行く。」と告げた。

こうして穏やかに過ぎた土曜日。そして日曜日の朝、つまりボルセリーノ検事が殺された7月19日の朝、検事の家の電話が鳴る。この朝のことをアニェーゼさんはこう語っている。
「あの日、とても早くに、当時のパレルモ検事長ピエトロ・ジャンマンコ氏から夫宛に電話がありました。夫は私に、“ジャンマンコ検事長は、ガスパーレ・ムートロを担当している捜査官らの追跡調査を行っていたんだ。本来ならば、これはヴィットリオ・アリクォー検事代行が行わなければならないものなのだが。”と教えてくれました。」
ボルセリーノ検事は、自分の命が残り少ないことを知る。
アニェーゼ夫人は今ふたたび、カルタニセッタ検察に訴えっている。
「夫は数日前から、コーザ・ノストラが自分を殺そうとしていることに気づいていたんです。」

『マフィア組織員らが収監されている刑務所内』で傍受された情報では、ボルセリーノ検事と、その他2名の検事ジョアッキーノ・ナトリ、フランチェスコ・ロ・ボーリが脅迫されていた。
アニェーゼ未亡人はこう言う。
「いつだったか夫はこの2人に電話をして、パレルモを離れて休暇を取るように勧めてました。それから外に出る時は護身用に拳銃を持って歩くようにとも。」
両検事はこの忠告に従い、そして、ボルセリーノ検事はパレルモに残った。自分に死刑が宣告されていることも、国家の一部とサルヴァトーレ・リイナをはじめとするコルレオーネマフィアの間で『交渉』が行われていることも知っていたのである。特別警察隊のメンバーであり、その中核をなしていたマリオ・モーリ大佐。そして、信頼すべきジュゼッペ・デ・ドンノ警察隊長。
カルタニセッタやパレルモの検察では、おそらくボルセリーノ検事はこの『交渉』に反対したから殺されたのだろうと考えている。

同事件における再捜査では、コルレオーネマフィアとの協定やマフィアが要求した見返りに関わっていた人物の新たな名前が毎日のように飛び出ている。
最近、登場した名前と言えばアントニオ・スブランニ将官。
当時の特別警察隊の指揮官であり、モーリ大佐の直属の上司にあたる。カルタニセッタ検察では、ボルセリーノ検事のこんな証言が得られている。
「殺される数日前、ボルセリーノ検事は、“スブランニ将官はプンチュートュー(編集部注:コーザ・ノストラ組織員の意)だ”って内輪で言ってました。」

強烈な単語だが、ボルセリーノ検事ならではの表現であり、どんな真意が隠されているのかはカルタニセッタ検察によって明らかにされるだろう。とにかく、ボルセリーノ検事によるこの一言は調書に記され、その調書は極秘扱いにされてきたのだ。
また、チャンチミーノ元パレルモ市長(1984年マフィア組織員として逮捕)の息子マッシモ・チャンチミーノ氏の最新の供述からも、スブランニ将官の名が浮かんできている。
政治トーク番組『アンノゼロ』でのインタビュー(検察からの指示で未放送)で、マッシモ・チャンチミーノ氏はこう話している。
「コルレオーネマフィアの性(さが)ゆえ、父は警察を信用していませんでした。モーリ大佐とデ・ドンノ警察隊長がこの交渉ごとを始めようとした時、当然のごとく父は疑ってかかりました。“私の裁判(編集部注:請負い関連の裁判)の交渉でさえ上手く立ち回れないないような連中が、どうしたらこんな具体的な要求に対応できるんだ…?”って。この時ですよ、彼らの上で責任を負っているのはスブランニ将官だって、父が聞かされたのは。」
これはシチリアで起きたこの惨劇について、捜査の中の別の捜査となるのだ。(2009年10月14日 La Repubblica)

 

 

『コーザ・ノストラと国家の交渉』『密約書』関連の記事は、まだまだ続いてますので、当ブログでは適当に別のニュースをはさみながら追ってゆく予定でいます。

 

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2 Responses to コーザ・ノストラと国家の密約書:殺された検事の妻、17年後の新証言

  1. Sanzone 2009年10月20日 at 9:55 PM #

    いつも「マフィア」(カモッラ、ンドランゲタ等含む)ネタを楽しく(?)拝見しています。

    このLa Repubblica、買った時に
    真っ先に読んだところはこの記事です。
    私もイタリアにはびこる「闇」
    =マフィアには
    かなり興味を持って、色々と
    本を読んだり(映画もil Padrinoではなく
    il DivoやGomorraを見たり)しています。

    ボルセッリーノもそうですが
    ファルコーネ検察官の死も
    衝撃を受けた一つです。

    あとヴァチカンやベルルスコーニとの
    「交流」も気になるところです。

    しかし・・未亡人アニェーゼ夫人の
    心中、察するにあまりありますね・・・

    あと個人的にRoberto Savianoの今後も
    心配しつつ、彼の勇気も素晴らしいと
    思っています。

    blogの続き、楽しみにしております。

  2. chirico 2009年10月21日 at 12:31 AM #

    Sanzone様、コメントありがとうございます。

    Repubblica紙を実際に買ったと言うお話や、「ボルセッリーノ」のカタカナ表記(こちらが正しいですよね)からして、もしかしてイタリア在住の方でしょうか。

    常々、当ブログの内容はマニアックすぎるよな〜とか、特にマフィア関連は、それこそ『ゴッド・ファーザー』のイメージからかけ離れていて、あんまり面白くないかもな〜と悩みつつ…でも、やっぱり自分で興味があるんで、ついついこの手の記事を選んでしまって…。
    まぁ、ついにコーザ・ノストラの謎も揺らいできたようだし、ここは腹をくくって訳してゆこうと決めていたところだったので、Sanzoneさんのように楽しみにしてくれてる方がいて、とても嬉しいです(注:本当に嬉しいです)。

    Roberto Saviano関連も、最近、護衛を外すとか外さない云々の記事が気になっていたのですが、この『密約書』関連の方に取りかかっていたので手が回らないでいました。
    後日、また新しい記事が出たらぜひ取り上げてみたいです。

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